平成25年度 SSP講演会(1)

はじめに

 科学に対して生徒たちがもつイメージはニュースなどで耳にしたことのある分野について「おもしろそうだな」と漠然と思っている程度で、具体性に欠けるきらいがあります。

 そこで、SSP講演会では、自然科学およびその関連分野について造詣の深い講師を大学や研究機関等からお招きし、最先端の内容を具体的にお話いただくことによって、生徒の興味・関心を深める意図をもって実施されます。

 また、今、自分が身につけるべきスキルについて生徒に再認識させ、自らのキャリアデザインを行う動機付けとさせる意図ももって行われるプログラムの一つです。

 

講演会の概要

  

実施日

講  師

テ ー マ

第1回 9月30日(月) 大阪大学 安食 博志 先生 光とは何か?-光科学への招待-
第2回 10月1日(火) 大阪大学 吉川 雄一郎 先生  人と人をつなぐコミュニケーションロボットの実現に向けて
第3回 10月2日(水) 大阪大学 小川 裕之 先生  ピタゴラス数のはなし
第4回 10月9日(水)

奈良先端科学技術大学

Steven Nishida 先生

奈良から世界へ
第5回 10月24日(木) 京都大学 津山 濯 先生 木はなぜ長生きか?-リグニン-地球を変えたもの
第6回 10月25日(金)

大阪市立大学

首藤 太一 先生

医学部入学はスタートライン-良医に求められる資質とは?-
第7回 10月30日(水)

(株)電通 石川 潔 先生  岡田 真人 先生

広告・クリエイティブという仕事
第8回 10月31日(木) 近畿大学 仲西 功 先生 お薬のデザイン(医薬品設計)とは

 

第1回講演 「光とは何か?-光科学への招待-」

大阪大学 光科学センター 特任教授 安食 博志 先生

 最初に、先生ご自身の学生生活等を紹介していただいた後、光の速さや性質など、その実態を解明してきた歴史を紹介しながら光とは何かについて教えていただいた。

 まず「光の速さ」について、ガリレオの例を挙げながら、「光の速さとは有限なのか」というテーマについての歴史を紹介された。

 初めて光の速さを求めたレーマーは、木星の衛星イオの食の周期が変化することから光速の値を秒速約20万kmと発表し、光速有限説が決定した。フーコーは地球上での光の速さの測定に取り組み、回転鏡を用いて光速測定を行い、非常に誤差の小さい範囲で成功した。

 「光は粒子か波か」というテーマでは、ニュートンが粒子説を唱え、それに反対した波動説としてホイヘンスの原理が説明された。さらにヤングの実験により、光の干渉縞という現象では、波動説で説明がついた。そして、フレネルは波動説で回折の現象を数式を与えて説明するとともに光の直進性も説明ができた。これらはホイヘンスーフレネルの原理と呼ばれ、後進波などの問題についても説明ができた。また、光が水に入るときに屈折する理由を考えることから、フーコーの実験より光は波動であるということが判明した。

 「光の正体は何か」というテーマでは、ファラデーの研究で磁気からも電気ができることがわかった。マクスウェルの発見した電磁波では、電場と磁場が交互に相手を生成していく。マクスウェルの電気と磁気の方程式より、波としての式ができ、真空中の光の速さと一致したことで光は電気と磁気の波であることを発見した。

 最後に光というものを考えることによって生まれた新しい現代物理学で、特にアインシュタインの相対性原理について説明していただいた。アインシュタインの特殊相対理論の1つの柱である「光速度不変の原理」や「特殊相対性原理」では、絶対空間や絶対時間を放棄し、代わりに「光速度」という絶対的基準を設定した。物体は運動方向に縮んで見え、運動している系は時間がゆっくり進む。速さの合成速度を計算しても決して光速を超えることはできない。さらに、質量はエネルギーであるということである。

 また、実際に偏光板を会場に持ってきていただき、一人に3枚ずつ配布してその見え方や明るさの変化を体験させていただいた。1枚、2枚と重ねながら、偏光板を回転させることで見え方が変わることを実感でき、光についてより興味関心を持つことができた。

 さらに、研究者を目指す生徒に対して推薦図書の紹介もしていただいた。やや専門的で高度な内容も含まれていたが、70名ほどの生徒は熱心に聞いていた。

 

生徒の感想から

 生徒からの質問には 、「偏光板についての見方の変化」、「光の速さで宇宙旅行に行ったときはどうなるか」、「超伝導について」、「光子について」、などが出され、興味・関心が高まったことがわかる。

 また、アンケートの感想には「少し難しい内容もあったが、光や波について興味を持つようになった。」、「物理に対する興味・関心が沸いた。」、「科学者の研究内容の歴史的な経緯がよくわかっておもしろかった。」、「今後もこのような機会を増やして欲しい」、などの感想が多く、講演のもつ意味を確信できる講演であった。

 また、「将来、宇宙や光についての研究をしていきたい」や、「特殊相対性理論や量子力学に強い関心を持ったので今後物理学を学びたい」、等の進路に対する考えも深まっている生徒もいて、生徒にとっては大変面白く、意義深いお話で、熱心に最後まで聞いていたようである。

 

  

第2回講演 「人と人をつなぐコミュニケーションロボットの実現に向けて」

大阪大学大学院 基礎工学研究科 准教授 吉川 雄一郎 先生

 現在は、人と関わるロボットの研究(interaction)が盛んになってきた。それらは、ロボットが人間の社会に入って普通に人とふれあい、人を手伝っていくことを目標としており、そのためのセンサーやロボットの形状や、人とどのように関わっていくかということを研究していく。そのような研究から人が人をどう理解し、認識していくのかということがわかってくる。これは人と関わる研究で文系理系の学際的な分野である。

 現在、半人間型の小型ロボットm3synky を使って研究を進めている。「人間の赤ちゃん」のような形状である。このように社会活動の中で人に作用するロボットを研究することで社会的状況において人が人をどう認知するのかを考えていくことができる。

 人は非言語的応答によってバランス状態を保つために過去の認知を書き換えることができることも、ロボットを使った実験によってわかってきた。

 うなずくロボットやうなずかないロボットに対して話を聞かせ、それを人がどう認識したかを実験することで、親近感の感じ方に相違が生じたり、複数のロボットを並べることで人の認知が変わってきたりすることがある。このような結果から、言語的応答に乏しい発達障害である自閉症の患者さんや認知症の人たちをケアする人たちを支えていくことに利用できるのではないかと考えられている。

 石黒研究室のアンドロイドの研究についても紹介していただいた。「ペインクリニック」での会話にアンドロイドを同席させて、患者さんの反応に対応させるという実験をしてみると、医師との対話の満足度が高いなどの結果を得られた。このように、ロボットが人間社会に役立ったという実用的な例も多い。

 これらの実験から、人間関係の構築にロボットがポジティブな影響を与えていくということの方向性の正しさが証明できたのではないか。そしてこのように、工学に社会学や心理学の側面があるように、最先端の研究は学際的な部分が必要になってきており、一つの分野だけではなく、いろいろな分野からのアプローチが必要である。

 

生徒の感想から

 人と関わるロボットの研究開発は、人間の社会性の仕組みを理解する助けとなるという側面があり、人の社会性についての現象を解説しながら、これらのロボットを用いた心理実験について紹介し、ロボット研究の新しい一側面を紹介していただいた。

 講演を聴いた生徒たちの中からは、「工学と社会学との関係」や、「ロボットの悪用」、「社会にロボットが出てくるのは実現可能か、それは何年後か」などについて質問が出され、それについても熱心に答えていただいた。

 生徒たちの興味・関心をおおいに引き出していただいた講演であり、ロボットの新しい側面についても提示していただいた有意義な講演であったと思われる。