平成26年度 SSP講演会(1)

はじめに

 科学に対して生徒たちがもつイメージはニュースなどで耳にしたことのある分野について「おもしろそうだな」と漠然と思っている程度で、具体性に欠けるきらいがあります。

 そこで、SSP講演会では、自然科学およびその関連分野について造詣の深い講師を大学や研究機関等からお招きし、最先端の内容を具体的にお話いただくことによって、生徒の興味・関心を深める意図をもって実施されます。

 また、今、自分が身につけるべきスキルについて生徒に再認識させ、自らのキャリアデザインを行う動機付けとさせる意図ももって行われるプログラムの一つです。

 

講演会の概要 

実施日

講  師

テ ー マ

第1回 9月29日(月) 大阪大学 安食 博志 先生 光とは何か?-光科学への招待-
第2回 9月30日(火) 大阪大学 實川 浩一郎 先生  21世紀の「ものづくり」-グリーンケミストリーと触媒-
第3回 10月27日(月) 大阪市立大学 首藤 太一 先生 医学部入学はスタートライン-良医に求められる資質とは?-
第4回 10月27日(月)

大阪大学 大谷 晋也 先生

世界の多文化・日本の多文化
第5回 10月27日(月) 京都大学 手嶋 伸 先生 昆虫の感覚、人間の感覚
第6回 10月29日(水)

(株)電通 田中 真輝 先生

広告・クリエイティブという仕事
第7回 11月7日(金)

近畿大学 仲西 功 先生

お薬のデザイン(医薬品設計)とは
第8回 11月10日(月) 大阪大学 小川 裕之 先生 素数のはなし

 

第1回講演 「光とは何か?-光科学への招待-」

大阪大学 光科学センター 特任教授 安食 博志 先生

 安食先生は、昭和61年に本校を卒業後、名古屋大学理学部物理学科を卒業され、東京大学大学院理学研究科を修了されました。

 大阪大学基礎工学部助手・助教を経て、2009年より光科学センターの特任教授に就任されています。

 

講演要旨

 最初に、高校の同窓会のお話をしていただいたり、大学や大学院での先生ご自身の学生生活や研究内容について紹介して頂き、先生の体験からフレキシブルに生きていくことも大切であることを教えていただいた。

 そして、光の速さや性質など、その実態を解明してきた歴史を紹介しながら光とは何かについて教えて頂いた。その内容は以下のようなものである。

 まず「光速度」について、デカルトの方法序説やガリレオの実験例を挙げながら、「光の速さとは有限なのか、それとも無限大なのか」というテーマについての歴史を紹介された。

 初めて光の速さを求めたのはレーマーであった。彼は、木星の衛星イオの食の周期が一定でないのは木星と地球の距離が変化するためであると説明し、それによって光の速さを求めた。このときレーマーが発表した光速の値は、秒速約20万kmであった。そしてレーマーによって光速有限説が決定した。

 次に、フーコーは実験室内での光の速さの測定に取り組み、歯車の代わりに回転鏡を用いて光速測定を行い、非常に小さい誤差での測定に成功した。

 次に、「光は粒子か波か」というテーマでは、ニュートンは粒子説を唱えていた。これは、「光をプリズムに通していろんな色に分かれるのはいろんな粒子があるから」、「光は曲がらない、波だと曲がってしまい、回折という現象も起こるはずである」という理由からであった。

 当時は粒子説が有力であったが、それに反対した波動説としてホイヘンスの原理が説明され、光の屈折や回折という現象は粒子説では説明できないが球面波という波として説明した。しかし、ホイヘンスの原理も完璧ではなかった。

 さらにヤングのスリットの実験により、光の干渉縞という現象は波動説で説明することで、波の山と山は明るく、谷と山は打ち消し合うようにして暗くなるということで説明がついた。

 しかし、やはり、粒子説が有力であった。そして、フレネルは波動説で回折の現象を数式を与えて説明するとともに光の直進性も説明ができ、パリのアカデミーの懸賞問題に応募し受賞したことで、光の波動説が有力になった。

 これらはホイヘンス-フレネルの原理と呼ばれ、後進波などの問題についても説明ができた。また、光が空気から水に入るときに屈折する理由として、波動説での説明では水の中の方が空気中より光の速さが遅くなるからであり、粒子説ではその逆であった。そこで、波動説での決定的実験として、フーコーの実験より水中の光速度は空気中の光速度の4分の3であることがわかり、光は波動であるということが判明した。

 続いて「光の正体は何か」というテーマでは、電気と磁気について説明があった。これは切っても切れない関係であり、ファラデーの研究からも電気から磁気ができるだけでなく、磁気からも電気ができることがわかった。

 マクスウェルは電気と磁気の方程式から波動方程式をつくり、電気・磁気の実験で測定した値を代入することで波としての速さが求められ、それが真空中の光の速さと一致することがわかった。このことで光は電磁波、電気と磁気両方の波であることがわかった。光は電気の波と磁気の波を描きながら進んでいるのである。これが光の正体である。

 また、実際に偏光板を会場に持ってきていただき、一人に3枚ずつ配布してその見え方や明るさの変化を体験させていただいた。1枚・2枚・・・と重ねて見ながら、偏光板を回転させたり、重ねる順番を入れ替えることで見え方が変わることを実感できた、光についてより興味関心を持つことができた。

 最後に光というものを考えることによって生まれた新しい現代物理学で、特にアインシュタインの相対性原理について説明していただいた。光の速さは同じであるので、「電車の中にいる人」の方が「電車の外にいる人」よりも時間がゆっくりと進んでいる。これが時間の相対性である。

 光速は不変である、どのような慣性系でも物理現象は同じであるという仮定で常識を覆すことが多くある。物体は運動方向に縮んで見える、運動している系は時間がゆっくり進む、速さの合成速度を計算しても決して光速を超えることはできないなどである。このようにしてアインシュタインの特殊相対理論の「光速度不変の原理」や「特殊相対性原理」についての説明があった。

 さらに、質量はエネルギーであるということである。そして、特殊相対性理論の身近な例として、カーナビ等に利用されているGPS機能について説明していただいた。GPSに使用されている衛星速度は非常に速いため、正確な時間を測定するためには相対論的な効果を利用して計算している。

 

生徒の感想から
  •  「素粒子理論について詳しく教えて欲しい。」という質問があった。
  •  「少し難しい内容もあったが、光や波について興味を持つようになった。」
  • 「物理に対する興味・関心が沸いた。」
  • 「科学者の研究内容の歴史的な経緯がよくわかっておもしろかった。」
  • 「今後もこのような機会を増やして欲しい」
  • 「将来、宇宙や光についての研究をしていきたい」
  • 「特殊相対性理論や量子力学に強い関心を持ったので、今後、物理学を学びたい」等の進路に対する考えも深まっている生徒もいた。

 生徒にとっては大変面白く、意義深いお話で、熱心に最後まで聞いていたようである。

 

 

  

第2回講演 「21世紀の『ものづくり』~グリーンケミストリーと触媒~」

大阪大学大学院 基礎工学研究科 教授 實川 浩一郎  先生

 我々の身の回りにある「もの」はすべて化学物質でできていますが、それらはどのようにして作られているのでしょうか。實川先生は、このような問いを私たちに投げかけられながら「環境にやさしいものづくり=グリーンケミストリー」について、触媒の果たす役割を紹介していただきながらご講演をしていただいた。

 まず、このかけがえのない地球に我々は活かされており、この地球の健康を守ることが科学の役割である。地球環境の保全を考え、エネルギー以外の資源は人類が自己完結しなければならない。つまり、地球規模での環境問題を考え、環境に優しいものづくりをすることが「グリーンケミストリー」である。

 環境に優しいものづくりの具体例として、反応におけるゴミをできるだけ少なくさせる原子効率の利用、人体と環境に害のない反応物の利用、再生可能資源の利用、生分解性プラスチックなどが挙げられる。

 この「グリーンケミストリー」の概念には12箇条があり、その中に「できるかぎり触媒反応を目指す」という項目がある。つまり、環境に優しいものづくりには触媒反応が不可欠である。触媒とは物質の変換を扱う物質であるが、反応の化学式には現れない縁の下の力持ちである。一定温度における反応速度の増大や活性化エネルギーを低くさせるなど、高い反応活性・反応選択性が実現できる。

 そして触媒は健康で文化的な生活を送るために必要な存在である。窒素肥料の合成は食糧の増産に、原油からガソリンの精製ではエネルギーの生産、プラスチックや医薬品など化成品の製造など多岐にわたり触媒が関与している。特に、窒素固定(ハーバーボッシュ法)の効果は食料生産から世界人口増加にも影響している。また自動車に関連した触媒では、燃料や排気ガス処理、車体の軽量化にも関与している。大気汚染防止のための排気ガス規制については、昭和48年の未規制から平成17年ではわずか1.6%のNOx許容濃度に押さえられるようになったのは排気ガスの触媒による処理が可能になったからである。

 このように、触媒の恩恵は我々の生活のあらゆるところに関与しているが、もし、触媒が存在しなければ江戸時代の生活に逆戻りしてしまうだろう。つまり、触媒を用いた環境調和型反応がグリーンケミストリーのポイントとして挙げられよう。安全な化合物の使用や事故の予防、廃棄物の低減や生分解性材料や再生可能資源の利用など、化学が実現する環境への貢献は多くある。そしてその各種の反応を触媒が制御しているのである。

 その後、實川先生の研究室での研究内容やそのメンバーの方々の様子をお話しいただくとともに、大学だけでなく大学院での研究の重要性やそこからの進路についてもお話しいただき、生徒にとっても進路を考える上で大変参考になる内容となった。

 

生徒の感想から

 南極に行くための香川先生の逞しく粘り強い行動に、まず生徒は引き込まれた。

 そして、想像以上の過酷な環境と、オーロラの包むような美しさに驚嘆した。困難を一つ一つ工夫しては克服する研究者の姿と、その過程を楽しんでおられるような先生の話しぶりに、科学することの素晴らしさを実感することができた。

 感想欄に、自分も夢を叶えようと決意を記した生徒もいた。