平成27年度 SSP講演会(3)

第5回講演 「医学部ってどんなとこ?ー良き医療人に求められること-」

大阪市立大学大学院 医学研究科 総合医学教育学教授 首藤 太一 先生

 医者は1年目からプロフェッショナルとしての自覚が必要であり、プロフェッショナルとはマニュアルにない対応力を要求されることである。

 先生が外科医のときの最も印象に残っている手術の例が「6時間長生き」の事例である。致命傷を受けた患者を1度目はすぐに死なせてしまったが、同じような状況で運ばれてきた患者を今度は6時間だけ延命させた。その処置に対して、周囲からは避難を浴びたが、ある先輩の医師からは「我々外科医は、少しでも長く生きられるようにすることが仕事だ。6時間長生きさせることができた。次はもう少し長く生きられるようにがんばろう。」と励まされ、医師としての自覚を教えられた。

 また、大学病院勤務外科医の当時の実情は、外来患者や手術、自らの研究、後輩の論文チェックなど週の労働時間が100時間を超えており、今では考えられない状況であった。家族との食事も年間数えるほどであり、給料もかなり低いものであったが、このような状況でやってこられたのはプライドと責任感があったからである。特に「おかげさま」と「お返し」という心を持ち、自分自身が多額の税金で医者になることができたのだから感謝の気持ちを忘れず、今度は少しでも還元していくことが必要だと思っている。

 次に日米の医学部の相違点について触れながら、現代の医学生や若い医師の課題を挙げていった。アメリカの医師を目指す学生には日本人よりも具体的で確固たる志望理由を持っている。そして、いい医師に必要なものとして、スキル・知識・マインドセット(心意気)の3つがあげられ、アメリカでも教えるのが一番難しいのは、マインドセットである。マインドセットは人間力であり、つまりはコミュニケーション力である。最近の日本の若い医師の中にもその力に欠けている者が多い。これは長年かけて個々の感性を磨いていかなくてはいけないものなのに、このコミュニケーション力をつけることを学生時代で後回しにしてきたのではないか。つまり、学生時代は解答を選択するのが得意であり、無駄なことを省くようにして生きてきた。このことが問題の原因ではないのか。

 また、大学施設にあるSSC(スキルシミュレーションセンタ―)は、学生、医師、看護師等が現場に出るまでの間にスキルアップのために手技等のトレーニングを行う、非常に利用率の高い施設である。ここでの実習をする際に、スキルアップの方法として大事なことは、常に「次は自分がやらなければならない。」という意識で実技を観察しなくてはいけないということである。教える先生も見せるだけであり、現場では一人で対処しなくてはいけないこともあるのだから必死で見て覚えるようにしなければならない。このような心構えを常に持つことが必要である。

 次にどういう人材が「求められる人材」であるかを示すために、会場で模擬面談(Aの医師、Bの医師と患者)を行い、その違いがどこにあるかを気づかせた。人の目をしっかり見てうなずいてくれる事の大切さは、つまり共感的態度の大切さであり、目を見る、話を聴く、うなずくことを通じて患者を理解することが最も大切なことである。これは、コミュニケーションの基本としての共感的態度であり、逆に頬杖や足を組むなどの態度は相手に不信感を与えてしまう。そして、万人に求められるコミュニケーション力とは、リスニング力→感じる力、リアクション・レスポンス力→「うなずく力」、スピーチ力→「伝える力、メッセージ力」などが含まれていることである。「口は一つ、目と耳は二つ」の理由は、「自分が話す倍ほど相手の目を見て、うなずいて聴け」と考えている。

 最後に、良き医療人になるための具体的な事例として、寝たきりの高齢者の最後の状態での対応の仕方を挙げた。そこから、コミュニケーションをとることは知識や技術だけでなく、患者や家族を理解するためであることを忘れない。そして、医師は病だけでなく、人・家族をみることが大事であり、「正しい答え」のない問題をこれからは考え続けていかなくてはいけないという覚悟が必要である。つまり良き医療人になるためには「マインドセット(人間力)」が必要である。

 

生徒の感想から

 講演後、生徒からは「医療問題について」の質問などもあり、非常に興味・関心を持って聞いていたようである。講演後ももっと詳しく話が聴きたいという生徒が参加者の過半数を超えたため、時間を延長して医療現場での話や先生の学生時代の話などをしていただいた。生徒達は長時間にわたっての講演でもとても熱心に話を聴き、講演後の感想では

  • 医療について大切なことを教えて頂き大変感動した
  • 具体的な内容でわかりやすく話して頂き、医療に携わる仕事の大変さや意味を理解できた。

 

 

   

第6回講演 「実験数学入門」

大阪大学大学院 理学研究科 助教 小川 裕之 先生

 「実験数学」とは、数学において多くの実験により新しい知見を得る研究方法である。

 計算機の発達した現在において、数学における「実験」に違和感は少なくなっているが、厳格な論理の世界とも言える数学で「実験」を考える意義はどこにあるのだろうか。

 一般的な「実験」とは、的確な実例を通して理解を深め知識を定着させることを目的とし、与えられた課題を実感をもって理解するために、定められた手順で行うすることが殆どであろう。

 これに対して「実験数学」は、実例から未知の現象を見つけ定式化し、新しい数学をつくるのが目的である。今回の講演では実例を多用した具体的な話が中心で、実際に手を動かして確認しながら話が進んでいった。

 

生徒の感想から

 生徒は「実験数学」という耳慣れない言葉に最初は戸惑いもあるようであったが、小川先生の親しみやすい話に徐々に理解を深め、その重要性を認識し始めているようだった。

 「実験数学」の考え方は、現在の生徒たちにとってある意味、最も必要な考え方かもしれない。というのも、「実験数学」では、常に自ら考えることが求められる。たくさん実験をすればよいというわけでなく、明確な問題意識のもと、ある種の期待を持ってこれから起こるであろうことを予測し、必要な実験を行う。

 漠然と眺めていたり、指示された通りに実験するのではない。自らの意思で実行するのが重要である。予測を検証し、証明を試みる。問題もそれを解く数学も自分で作り出す。これが「実験数学」なのである。

 この研究方法は、現在多くの大学で取り入れられているようで、文系・理系を問わずすべての学問に通用する考え方であるらしい。多くの生徒にとって、近い将来に始まる、大学での研究生活の一つの指針となるであろうと思われる大変有意義な講演会であった。