平成28年度 SSP講演会(1)

はじめに

 科学に対して生徒たちがもつイメージはニュースなどで耳にしたことのある分野について「おもしろそうだな」と漠然と思っている程度で、具体性に欠けるきらいがあります。

 そこで、SSP講演会では、自然科学およびその関連分野について造詣の深い講師を大学や研究機関等からお招きし、最先端の内容を具体的にお話いただくことによって、生徒の興味・関心を深める意図をもって実施されます。

 また、今、自分が身につけるべきスキルについて生徒に再認識させ、自らのキャリアデザインを行う動機付けとさせる意図ももって行われるプログラムの一つです。

 

講演会の概要

  

実施日

講  師

テ ー マ

第1回 10月7日(金) 大阪大学 境 慎司 先生 酵素ヒドロゲルを使った再生医療・組織工学技術の開発
第2回 10月24日(月) 京都大学 龍野 瑞甫 先生 花にとっての虫・虫にとっての花
第3回 10月26日(水)

近畿大学 中西 功 先生

お薬のデザイン(医薬品設計)とは
第4回 10月28日(金)

大阪大学 小川 裕之 先生

アナログ計算機を作ろう
第5回 11月7日(月)

大阪市立大学

首藤 太一 先生

大学(医学部)入学はスタートライン-イケてる人材(医師)に求められる資質とは?
第6回 11月11日(金) 京都大学 北川 宏 先生 現代の錬金術:人工的にパラジウムは作れるか?
第7回 11月17日(木) 国際協力機構JICA 坂本 篤紀 先生 国際協力の現場から

 

第1回講演 「酵素・ヒドロゲルを使った再生医療・組織工学技術の開発」

大阪大学大学院基礎工学研究科 物質創成専攻 化学工学領域 生物プロセス工学講座 教授 境 慎司 先生

 再生医療の恩恵を享受できるためには、iPS細胞等から目的細胞を分化する技術の発達だけでなく、個々の細胞から組織や臓器を作り上げる技術の発達も重要である。このことに関して、化学工学的な視点から酵素やヒドロゲルを使った研究についてご講演をいただいた。

 まず、境先生ご自身の自己紹介をしていただいた。特に、大学から研究者への道に進まれた過程では化学プラントの研究から再生医療の研究へと大きく方向転換がなされた。

 そして、「なぜ、化学工業者が再生医療に取り組むのか?」というテーマでは、化学工業の特徴を説明された上で、iPS細胞の開発がより多くの人々の医療へとスケールアップするためにこの化学工業が必要である。たとえば、一人分の臓器を構成する細胞を平面上に広げると、心臓では約100m2必要である。したがって、より少ないスペースで三次元的に多くの細胞を作っていくことを研究している。

 そして、先生の研究内容である「酵素・ヒドロゲルを使った再生医療・組織工学技術の開発」について詳しく教えていただいた。

 まず、組織工学とは何なのか、そして組織工学の生みの親である研究者とその研究内容、組織工学の必要性について解説された。

 さらに、より具体的な研究内容としてゼリー・ヒドロゲルについては、合成高分子であるPVAや天然高分子であるヒアルロン酸やコラーゲン、アルギン酸、ゼラチンなどが人体に安全であることを最重要視して研究に使われていることを教えていただいた。

 また、生体触媒としての「酵素」の中でも西洋わさびに由来するペルオキシダーゼの特徴を動画を交えて説明いただいた。これらのゼリーやヒドロゲルが再生医療にどう関わっているかの具体的な例として「乳がん」の治療の際に乳房の再生がある。また3Dプリンターを使った組織の再生についても教えていただいた。バイオプリンティングやその進歩、さらにバイオインクなど、最先端の再生技術を説明いただいた。

 次に、大阪大学基礎工学部の紹介をしていただき、具体的な学科の内容や研究内容について詳しく紹介していただいた。境先生の所属する化学工学コースについても詳しくその研究内容や特徴を教えていただいた。

 また、講演の合間には、「英語は文系選択者よりも理系選択者の方がこれからは必要になる。論文は英語で書かれており、研究者も海外の人たちが多く入っておられるので英語はどんどん必要になってくる。」というメッセージもいただいた。

 

 


第2回講演 「花にとっての虫・虫にとっての花」

京都大学大学院農学研究科 博士後期課程2回生 龍野 瑞甫 先生

 先生は、昔から虫が大好きで、虫と他の生物との関係を研究され続けている。

 まず昆虫はなぜ花を訪れるか、という質問から始められた。「虫は、花から花蜜や花粉などの餌をもらう。その代わり、花は昆虫に花粉を運んでもらう。」と言えば、何とも仲睦まじそうな印象を受けるが、そんなことはない。

 植物はできれば昆虫に餌を提供したくないし、昆虫も花粉を運びたくて運んでいるわけではない。それでも被子植物の約88%は動物に送粉を託しており、動物-植物間の送粉共生系は、地球上で最も重要な共生系として1億年以上前から存続している。

 送粉生態学の基礎を説明した上で、送粉共生系が維持されるメカニズムを、ちょっとしたゲームを交えて紹介していただいた。まず、花に関する虫として、ハナバチ・蝶・ハエ・甲虫についてお話くださった。ハナバチにも相当種類があることを教えていただいた。

 また、虫の体のメカニズムとして、ハチの目の構造がとても興味深いものだった。

 虫は花から栄養源をもらうが、それだけではない。花は虫にとって、繁殖の場になったり、暖をとる場所であったりする。例えば、マルハナバチは温かい花を選ぶ傾向がある。高山には花が熱を発して昆虫を暖めるものさえある。

 花にとっては、できるだけ昆虫に花粉を多く取られたくはない。ほどほどであって欲しい。そのための対策をしている。

 花と虫との関係において、虫の代表格はミツバチである。ミツバチの研究は、遠くアリストテレスも行っている。ミツバチには「形の抽象化能力」「色の恒常性」がある。先生は、ミツバチが花を扱う時間、つまりハンドリングタイムをどのように短くしているかについて話された。その1つに定花性がある。1種類の花を識別して探す方が楽であるからである。逆のことになるが、それは他の昆虫にもあてはまり、花を見ると、どの昆虫が集まってくるかが分かる。

 花の色や形、開花時期などには非常に深い意味を持っている。それらが、昆虫にどのような影響を与え、ひいてはそれが生態系にどれほど大きな影響を与えているかは計り知れない。このことについては記さないが、非常に興味深いお話をしていただいた。

 質疑応答では、現在の研究内容についてや、今後の研究の展望、大学の研究室の様子、理学部と農学部の相違点、などなど、盛り沢山であり、一人ずつに丁寧に応えられていた。

 

 

生徒の感想から
  • 日頃何気なく見ている自然の花。その花に寄り添う昆虫。実はそこに思いもしない関係があることを知って驚いた。
  • 花の構造、色、開花時期、花粉、蜜などの要素は、それが生存するために進化してきた結果である。同様に、昆虫はどのように花を探しているのか。いつ花粉や蜜を採取しているのか。お互いがお互いの進化を支え、共存社会を築いている。